創造性:個人の資質と周囲の環境
ちょっと古い資料ですが,『平成14年度 科学技術の振興に関する年次報告』のコラム「創造性の文化」において,ノーベル賞を生み出した「個人の資質」と「環境」について述べられています*1。
2001年はノーベル賞がはじまって100周年に当たり,これを機にノーベル博物館が過去の受賞者を分析して「創造の過程でより重要なのは,個人の素質か,創造性を生む環境か」という問いに答える試みがなされたそうです。100年間でのノーベル賞受賞者は700人を越えるそうですが,この中から様々な分野,国籍,時代の受賞者約30人(個人の素質),多くの受賞者を輩出した10の環境(創造性を生む環境)を選び,その受賞の要因を分析したそうです。
個人の創造性(Individual Creativity)
- 勇気,挑戦,不屈の意志
- 確立された理論などに疑問を投げかけ,まわりになんと思われようと自分のやり方を信じて新しい途を切り開いていくこと
- 組合せ
- 異なる領域の知識や洞察を組み合わせる能力があること
- 新たな視点
- 古い問題やよく知られた現象を新たな視点から見ることのできる能力があること
- 遊び心
- 研究以外の日常生活や遊びにおいても好奇心を持つこと
- 偶然
- 予期しない結果を見逃さないこと
- 努力
- 根気があること,辛抱強いこと
- 瞬間的ひらめき
- 不意に浮かぶ発想を重視すること
創造性を生む環境(Creative Milieus)
- 集中(人口密度が高い),多様な才能
- いろいろな分野や専門で多様な才能を持つ人々が一つの場所に集まっていること
- コミュニケーション,ネットワーク
- これらの人々が一つ又はいくつかのネットワークに属して,知識やアイデアを交換し,互いにコミュニケーションを取り合えること
- インフォーマルな会合の場
- 確立された組織とは別に,研究所のカフェテリアなどの会合の場があること
- 往来がしやすい
- 異なる環境(他の研究組織など)との間の往来がたやすいこと
- 資源
- 自分の研究を遂行するための資源が存すること
- 自由
- 自分自身の問題を選択し,自分自身のアイデアに従う完全な自由があること
- 競争
- 業績を上げることに対する強力なプレッシャーがあること
- カオス(組織の不安定な状態)
- 確立された制度的組織や階層組織が崩壊し,個人の台頭する余地が現れること
(ただし,資源・自由と競争との間に微妙なバランスが取れていることが重要とのこと)