リストラだってアウトソーシングする時代

先日,『君たちに明日はない』および続編の『借金取りの王子』(垣根涼介)を読みました。ふだん小説はぜんぜん読まないのですが,ある日ふらっと本屋に行ったときにポップにひかれて手にとって,チラッと読んだら面白そうだったので,つい買ってしまいました。実際に読んでみると,想像以上に面白かったです。ポップ重要


ある意味で似たテーマの小説として『マイレージ,マイライフ(原題:Up in the Air)』(Walter Kirn)があります。これもざっと読みました(時間がなかったので流し読みで)。時間があるときに何人かでこれを題材に話をしたら,けっこう楽しめたかもな,と思います。

君たちに明日はない』&『借金取りの王子

帯によるとなんかNHKでドラマ化されていたらしいですが,うちにはテレビが無いので知らんのです。この本の中にはやたら「美人」という表現の女性が出てくるのですが,個人的には,ドラマで誰がそれらの美人を演じたのかが興味津々です。


主人公はリストラを請け負う専門会社の社員です。物語は,その主人公とリストラの対象になった人たちの駆け引きを中心に進みます。各章が個々のリストラ対象者になっているので,短編集みたいで読みやすいです。


素晴らしいのはこの「企業のリストラを請け負うプロフェッショナル」という設定ですね。この設定になった時点で,つまらないはずがないと思うのです。そして,垣根涼介さんはそこにどんなドラマが生まれるのか,というのを見事に書ききっていると思います。リストラ,深いです。深い。そうか,リストラの理由はデキが悪いからってだけじゃなかったんだね。。


「リストラだってアウトソーシング」ではなく,「リストラこそアウトソーシング」なんじゃないかあ。まあともかく,人間ドラマとか,食うか食われるかの駆け引きとかが好きな人には絶対的にオススメですよ。

マイレージ,マイライフ』

頭がよくて教養もある人が,ドラッグをキメて小説を書いたらこうなるんだろうな,という感じの内容でした。もしくは精神的に不安定なときに書いたか。作者が飛行機に乗ったときに他の乗客と交わした会話にヒントを得て書いたものだそうですが,内面的には作者の世界観が色濃く反映された小説なのではないかと思います。


こっちは映画化されていて,その公式サイトはこちら(日本語版)(予告編が観れます)。自分は映画は見ていないですが,予告編や映画評論家の語りを見る限り,小説と映画はまったく別物です。さすがハリウッド!


自分は飛ばしつつ読んだのでこの小説の内容をうまく表現できないですが,訳者あとがきを参考にしましょう。

 地上とエアワールド。本書ではその一種のパラレルワールドを舞台に,過去と現在が交錯し,進行形のできごとに回想と幻想と心象風景がはいりこみ,正気と妄想がいりまじり,奇妙なエピソードが積み重なり,後半ではドラッグも手伝って彼の妄想は加速し,現実と非現実な世界とがまざりあうように展開されていきます。


要は,主人公は疲れていて精神的に不安定で,心臓発作でたまに意識を失い,かつドラッグもキメるのですが,この小説はその主人公の一人称で書かれているのです。というわけで,話がしょっちゅうトビます。

 彼らは空を飛び,知らない街を訪れます。孤独や不安や疎外感を抱えて。どこかで人間関係を望みながら。もっといい人間になりたいと願いながら。家族への複雑な思い。父親にたいする憧れと母親にたいする葛藤。そういった意味で,本書は現代人が自らのアイデンティティアイデンティティを模索し見つけだしていく物語だと思います。そしてまた,いったん切り離したはずの家族とのつながりを問いかける物語だとも言えるのではないでしょうか。


これを読んで,読者は「まあ,確かにそうかもしれないけど,でもちょっと違うよね。」と感じると思うのです。読み手によっていろんな解釈ができる小説です。というわけで,時間のある人はこの小説から何が読み取れるのかをじっくり考えると面白いのではないかと思います。ちょっと流行っているらしい「読書会」でみんなでわいわいやるのにちょうどいいのではないでしょうか。


ちなみに原題『Up in the Air』からネイティブの人が感じるニュアンスは分かりかねますが,邦題としては『マイレージ,マイライフ』は秀逸だと思います。グッジョブ!